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スイスで博士号を取得したScientistの徒然なるひとり言

これを押さえれば大丈夫!有機合成試薬のクエンチ方法



みなさんは試薬のクエンチ、つまり「潰し」をしますか?

この記事は有機合成化学者が直面する「どうやってこの試薬潰そう?」に、こうすれば取り敢えずクエンチできると言う解決策を提示出来ればと思います。

これを心得ていればハラハラせずともしっかり残留試薬を処分できると思いますよ。

 

結論から言うと基本的に、

薄める冷やす反応剤(クエンチ剤)

をすればまず問題ありません。

 

目次

 

薄める

潰そうとしているぐらいですから、常温で安定性が低く(反応性高)、湿気や酸素に敏感な試薬が多いです。

其奴らを直に潰すのは絶対NG。

通常の反応通り、溶媒で薄めましょう。個人的にはエーテル系かアルキル系を用います。THFとかn-ヘキサン。これらはグリニャールやブチルリチウムなどの溶液として販売されていることからも比較的安定です。

この時の溶媒はテクニカルグレードのもので問題ないです。無水を準備する必要はありません。

必要量の溶媒を入れたフラスコに適当な撹拌バーを入れて、アルゴンか窒素の雰囲気下にします。風船で十分だと思います。

 

冷やす

個人的にはドライアイスでガッツリ溶媒を冷やします。

そこに、潰したい試薬をシリンジで投入します。

100mlなど大容量を投入する際はカヌーラを使った方が簡単です。

 

クエンチ剤を入れる

希釈溶液が均一系になり、十分冷えたのを確認したら、クエンチ開始です。

塩基にはを、には塩基を少しずつ加えましょう。

ルイス酸(BBr3)などにはアルコールを入れます。

潰したい試薬を100%純度と仮定し、どれだけの酸or塩基が必要か計算しておくと良いでしょう。

酸としては飽和アンモニウムクロライド水溶液1N塩酸

塩基としては飽和重曹をよく用います。

段々と水が凍ってくると思いますが、必要量プラスα入れたら、室温に戻して10分くらい置きましょう。室温でバーが普通に回って居れば問題ないです。

自分の場合は、トドメにイソプロパノールをクエンチ剤と同量入れて、少し攪拌した後、廃液タンクに処分してお終いです。

 

自分が経験したクエンチで代表的なものはtBuLi

 sBuLiBBr3ですね。

 

sBuLiに関しては100ml以上を一度にやりました。

この時は2リットルのフラスコを用いました。

薄めて、冷やして、クエンチ。これで問題なく完了です。

BBr3はめちゃくちゃ純度の高いものをこれまた100mlほど。THFに薄めて、冷やして、メタノールを滴下しました。

今のところクエンチで大きな事故は起きていません。

 

まとめ

いかがでしたか。

基本は薄める冷やすクエンチです。

大体の工程は想像できたでしょうか。有機合成は危険と隣り合わせですが、その中でもクエンチは最も危険な作業だと思います。

ドラフトの中で行い、直ぐ近くにサンドや金属からの火に対応している消火器を置く。水や二酸化炭素は反応する可能性ありで使用厳禁です。

白衣、手袋、保護メガネor顔面シールドを装着して、必ず複数人で行ってくださいね。

 

自然発火物質の消化方法は以下のサイト(Sarpong研@UC Berkleyから)をご覧ください。

http://www.cchem.berkeley.edu/rsgrp/SOPs2015/Quenching-Pyrophorics_Sarpong.pdf

http://www.cchem.berkeley.edu/rsgrp/SOPs2017/Quenching-WaterReactiveChemicals_Sarpong.pdf

 

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